年金時代

インタビュー:大野 実・東京都社会保険労務士会会長

社労士だから、働き方改革とデジタルファーストの大きな政策課題を現場で一体的に取り組める

――社労士は、政府から働き方改革の推進役として期待されています。そうした期待に具体的にどうこたえていきますか。

8月初めに内閣改造があり、その直後に、塩崎恭久前厚生労働大臣が、全国社会保険労務士会連合会(以下、連合会)に退任のあいさつに見えられました。そのあと立て続けに加藤勝信新厚労大臣、そして副大臣、政務官が次々に就任のあいさつにお見えになりましたが、この10年ほどの間に、社労士制度が社会からますます期待されるようになってきていることを改めて実感しました。

こうした期待にこたえていくうえで、まず、会員の社労士には、働き方改革が働く人一人ひとりにとって望ましい、願ってもない労働環境改善への取り組みであり、社労士がそれを実現する身近な担い手であるという自覚をもっていただきたいのです。そして、私たち社労士自身が働き方改革の目的を十分理解し、企業の労務管理にかかわっていくことで、世の中が変わっていく、働いている人が元気になっていくことを実感すれば、社労士という仕事に、いま以上に「夢」をもつことにつながり、士業としての誇りを私たち自身がもち、さらには社会的な評価を高めることにもなっていくことでしょう。

そして、官邸主導とされる働き方改革の推進を、政治の現場で間近に接し、社労士がかかわり、政策決定への具体的なアドバイスを求められる場面では、ものすごいスピード感をもって、働き方改革が実現に向けて取り組まれていることを肌で感じることができました。そうであればこそ、このスピードに、実際の現場で働き方改革に対応する社労士が置いていかれないよう、抜かりなく情報を収集し、会員の社労士に伝達し、適切に対応していくことも、フロントランナーである東京会の役割だと肝に銘じています。

――もう一つの事業運営の重要課題と位置づけている、政府のデジタルファースト実現に向けての会長の決意のほどをお聞かせください。

労働・社会保険諸法令に基づく手続をオンライン化やIT化していくことで効率化が図られれば、企業は本業にも専念できますし、余計な手間暇がかからない分、結果として、長時間労働の是正にもつながっていくでしょう。

さらに、行政手続のオンライン化への見直し効果が、企業が積極的に働き方改革に取り組んでいこうとする動議づけになれば、社労士は働き方改革を生産性向上にも結びつけた労務管理上のアドバイスをする、最良のビジネスパートナーにもなるはずです。

働き方改革の関連法案は秋の臨時国会への提出が予定されています。法整備は国がやっていくことではありますが、成立した法律を社労士の顧問先である会社の経営者が納得して、企業の生産性の向上や人材の確保や定着という、経営者にとっても合理性があるとの認識をもっていただくようにするのが、私たち社労士の腕の見せどころです。また、企業経営の現場で労務管理や行政手続にかかわる社労士だからこそ、経営者の話をじっくり聞き、その一方で、労働諸法令に基づき、働く従業員の権利を遵守した、効果的な対応策が提案できます。つまり、企業経営の合理化・効率化とともに、労働者の視点に立った労働環境の改善とを、社労士だからこと、折り合いをつけながら、企業の経営および労務管理にかかわっていくことができるのです。

――社労士が、働き方改革とデジタルファースト実現に、一体的に取り組む業務事例として、どのような取り組み方が考えられますか。

連合会では、今年6月に政府の働き方改革への支援を表明しましたが、そこには、働き方改革とデジタルファーストとを結びつけ実現するモデル事業ともいえる取り組みが示されています。東京会でも7月27日の理事会で、政府の働き方改革に対して、連合会と同様の支援を表明していくことを了承し、8月1日には「働き方改革支援宣言」を発表しました。

支援宣言では、社労士制度は平成30年12月に創設50周年を迎えるのですが、その先の未来に向けて「人を大切にする企業づくり」をテーマに掲げ、わが国における労働環境のさらなる改善に寄与する取り組みを進めるとしています。そして、その具体的な対応策の一つとして、「サイバー法人台帳ROBINS」を活用した「経営労務診断」「労働条件審査」の一層の推進を図ることによって、労働環境の改善に資するとしています。

ROBINSは、一般財団法人日本情報経済社会推進協会(JIPDEP)が運営する、日本最大級の企業情報データベースで、インターネットを利用して、信頼性の高い企業情報を、だれでも・いつでも・どこでも・簡単に・無料で、見ることができます。また、企業みずからが申告した情報を社労士などの第三者が確認し、正しい情報と認めたものだけを掲載するので、ROBINSに掲載されることが信頼の証しにもなるのです。

そして、社労士が行う経営労務診断サービスでは、社労士が企業の経営労務管理情報に基づいて、安心安全な取引ができ、快適な職場環境を有している企業であるかどうかを診断し、確認できれば、サイバー法人台帳ROBINSに掲載されますから、企業の健全性をアピールすることになるのです。

つまり、働き方改革を、経営労務診断サービスというデジタル化された企業情報データベースへの掲載を通じて、労働環境の改善という働き方改革を実現していくことになるのです。

――いま、お話にも出ました社労士制度創設50周年ですが、東京会では50周年にどう取り組んでいきますか。

まずは、私たちが50周年という社労士制度の大きな節目に居合わせる当事者であることに非常に感謝しています。先輩の社労士の皆さんがいまある社労士制度を形づくってきたわけですが、それをこの50周年という節目において、その歴史を総括し、さらにこれからの社労士制度をどう進めていくのか、大きな方向性を示していくことが、50周年の節目にあたった私たち執行部の責任だと感じています。

そこで、50周年にイベントや行事を実行することが重要ではなく、50周年の節目をどう意識するかが大事だと考えています。つまり、戦術ではなく戦略が大切なのです。

要するに世の中がものすごく大きく変わるときに、何がどう変わるのかをより多くの情報を正確に把握することで、それにどう対応していくべきなのかを、会員と幅広く議論したうえで、明確な戦略をしっかりと打ち立て、期限を決めて確実に実行していきたいと考えています。

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