年金時代

『厚生年金保険法総覧』について紹介します!

本文1,480頁に、厚生年金保険法の条文ごとに、関係政令・省令・告示・通知等を収録。法令上の根拠、行政解釈、事務取扱いの全容を体系的に網羅した法令集『厚生年金保険法総覧』(社会保険研究所発行)の平成30年4月版がこのたび刊行された。そこで、年金時代編集部が制作を担当した年友企画株式会社の大山均氏にインタビュー。制作担当者自ら同書について語っていただきました。

 

2年半ぶりの改訂――平成27年10月から30年3月まで公布の法令等を新規追加掲載

 

─── まず、「総覧」とありますが、どのような内容が網羅されているのでしょうか。

「総覧」というのは、言葉の意味からいえば、すべてを見るとか、ある事柄に関係するものを1つにまとめたものという意味になると思います。したがって、『厚生年金保険法総覧』というのは、厚生年金保険法のすべてを眺められる、厚生年金保険法に関係するものを1つにまとめたものということになります。
実際に、この『厚生年金保険法総覧』では、目次をご覧になればわかりますが、厚生年金保険法本則の第1条から第105条までを中心にして、それぞれの条文ごとに、その条文に関係する附則の条文、政令の条文、省令の条文、あるいは関係する告示や通知を収録して編纂しています。
法律のレベルでは細かな規定まで書き込むことができない場合が多いため、政令や省令に委ねることが多いです。そのような場合には、法律の条文では、「~については政令で定める」とか、「~については省令で定める」などと記されています。これを社会保険六法などで探していくと非常に手間がかかります。その点、『厚生年金保険法総覧』では、このように記されている条文のすぐあとに、該当する政令や省令の条文を掲載しています。その意味では、非常に使い勝手よくできているはずです。
体裁上も可能な限りの工夫を凝らしています。厚生年金保険法の本則の条文については大きいポイントの文字に実線の罫囲みをし、本法の附則については大きいポイントの文字にミシン罫囲みをし、改正法の附則については大きいポイントの文字で罫囲みなしとしています。また、政令、省令、告示、通知、さらには厚生年金保険法以外の法律などについては、少し小さいポイントの文字を使用しています。

厚生年金保険法総覧 p315, p326, p331


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ずいぶん厚い書籍ですが、どのような方にご購入いただいているのでしょうか。

これまで、内容に関する問い合わせ等の電話をいただいてお話をさせていただいた限りでは、社会保険労務士や年金事務所の職員の方が多いような印象があります。いわば、直接年金の実務に携わっている方です。しかし、内容的には、厚生年金保険法そのものを対象としている図書ですから、企業の総務ご担当の方や、平成27年10月から被用者年金制度が厚生年金保険に一元化されていますので、共済組合などで総務をご担当されている方にも役に立つはずです。

 

─── このたびは平成30年4月版ということですが、本書の特色はなんでしょう。

今回の平成30年4月版は、平成27年10月版を発行したあと約2年半ぶりの改訂版となりました。この2年半の間、厚生年金保険に関しては、平成24年法律第62号のいわゆる「年金機能強化法」による改正事項のうち、短時間労働者に対する厚生年金保険の適用拡大(平成28年10月1日施行)、老齢基礎年金の受給資格期間の短縮(平成29年8月1日施行)をはじめ、平成28年法律第114号のいわゆる「持続可能性向上法」による改正事項のうち、短時間労働者に対する厚生年金保険の適用促進(平成29年4月1日施行)、年金額の改定方法の見直し(平成30年4月1日施行)などの施行に伴う政省令の改正および通知類の発出が行われました。これらの政省令の改正内容や主な通知類をすべて盛り込むようにしました。
また、平成30年に入って行われた個人番号(マイナンバー)の利用に伴う大規模な省令改正(平成30年1月31日公布、3月5日施行)の内容もすべて収載しています。
さらに、この『厚生年金保険法総覧』には、障害厚生年金に関連して「障害認定基準」(昭和61年3月31日庁保発第15号、最終改正平成29年9月1日)の全文を掲載しています。この「障害認定基準」は、最近毎年のように見直しが行われています。今回の平成30年4月版でも、平成28年9月1日から実施された「精神の障害に係る等級判定ガイドライン」を収録するほか、平成28年度および平成29年度における「障害認定基準」の改正内容(平成28年6月1日適用の「神経系統の障害」と「代謝疾患による障害」の改正、平成29年9月1日適用の「差引認定基準」の改正、平成29年12月1日適用の「血液・造血器疾患による障害」の改正)を盛り込んでいます。


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では、制作担当者から同書のご案内をお願いします。

医療保険は短期給付、年金保険は長期給付といわれています。平成29年8月1日から老齢基礎年金の受給資格期間が10年に短縮されましたが、年金制度の場合は長い保険期間を要するものであることに変わりありません。どれだけ法律改正が行われても、期待権と既得権を保障するために、たくさんの経過措置や特例措置が設けられています。そうした経過措置や特例措置は、本則ではなく本法附則や改正法の附則、それに経過措置政令で規定されることがほとんどです。それだけに、法律の条文がかなり複雑でわかりにくくなっていることは否めません。この『厚生年金保険法総覧』では、そうした経過措置や特例措置が盛り込まれている附則や経過措置政令の条文などを必ず本則の条文と関連付けて配列・編綴しているため、かなりわかりやすく、しかも調べやすくなっていると思います。
社会保険六法などを使うと、どうしても法律の本則、本法附則、改正法附則、政令、経過措置政令などあちこちのページをめくらなければならず大変な手間がかかってしまいます。この『厚生年金保険法総覧』では、それぞれの条文が関連付けて配列・編綴されているうえ、関連する通知などがある場合にはそれらもあわせて配置しています。
その意味で、最初に述べたとおり厚生年金保険法の全体を見渡すことができて、しかも関係する条文をまとめて編綴されているため、文字どおりに「総覧」の名にふさわしい実務書となっています。
年金の実務などに携わっている方が、より多く利用されることを期待しています。

 

『総覧』を使って資格期間短縮を読み解く

 

─── いま紹介のとおり平成29年8月に資格期間が25年から10年に短縮されました。それに関連して、具体例をあげて、資格期間短縮に関連した規定を『総覧』を活用して、読み解いていただけますでしょうか。

まずは、そもそも老齢基礎年金の受給資格期間の短縮が厚生年金にどうかかわっているのかという素朴な疑問から始めていきましょう。

老齢厚生年金の受給資格期間

厚生年金保険法の第42条(『厚生年金保険法総覧』では315頁。以下頁数は『厚生年金保険法総覧』の頁数)では、「受給権者」という条文の見出しで老齢厚生年金の受給資格について規定しています。それによると、老齢厚生年金は、被保険者期間(厚生年金保険の被保険者期間)を有する者が65歳に達して保険料納付済期間と保険料免除期間とを合算した期間が10年以上ある場合に支給することとされています。
では、この保険料納付済期間と保険料免除期間とは何でしょうか。言葉としては国民年金法を連想させます。厚生年金保険法の第3条の「用語の定義」(41頁)を見てみますと、第1項第1号と第2号では、次のような規定が見られます。「一 保険料納付済期間 国民年金法第五条第一項に規定する保険料納付済期間をいう。」「二 保険料免除期間 国民年金法第五条第二項に規定する保険料免除期間をいう。」
このように、国民年金法の用語をそのまま厚生年金保険法でも流用していることがわかります。こうして、老齢基礎年金の受給資格期間の短縮をうけて、厚生年金保険法の本則で老齢厚生年金の受給資格期間も10年に短縮されていることが読み取れます。

受給資格期間短縮の特例はどこで規定している?

そのうえで、さらに踏み込んで、この受給資格期間の短縮について見てみようとする場合には、昭和60年改正法附則に目を向ける必要があります。この法律は、いうまでもなく、昭和61年4月1日から実施された基礎年金制度導入のための改正法です。正確には、「国民年金法等の一部を改正する法律」(昭和60年法律第34号)と呼ばなければなりませんが、慣例的に昭和60年改正法と呼ぶことが多いです。この法律は、いまから30年以上も前に公布された改正法律の附則ですが、いまだに適用され、効力をもっているものです。年金制度が長期給付と呼ばれていて、長い保険期間を要するものであるために、既得権と期待権を保障するという趣旨から、制度改正が行われるたびにたくさんの経過措置や特例措置が設けられています。そのために、改正法附則は時間がたっても適用されることが多いです。
昭和60年改正法附則のうち、老齢基礎年金の受給資格期間短縮に直接かかわる条文は、附則第12条です。この条文の見出しは「老齢基礎年金等の支給要件」となっていて、第1項には全部で20号が設けられている長大な条文です。平成30年4月版の『厚生年金保険法総覧』では326頁から331頁までに収録されています。この20号の特例措置をざっと概観してみたいと思いますが、その前に留意しておかなければならないことがあります。

受給資格期間の短縮は老齢給付のみ

それは、今回の受給資格期間短縮というのは、あくまでも老齢基礎年金に係るものであって、遺族基礎年金の長期要件に関しては従前どおり25年のままとなっている点です。国民年金法の遺族基礎年金の支給要件を規定している条文の第37条第3号と第4号では、「三 老齢基礎年金の受給権者(保険料納付済期間と保険料免除期間とを合算した期間が二十五年以上である者に限る。)が、死亡したとき。四 保険料納付済期間と保険料免除期間とを合算した期間が二十五年以上である者が、死亡したとき。」と規定されています。
このことを念頭においたうえで、昭和60年改正法附則の第12条について見てみましょう。この条文は、当然のことながら、もともとは老齢基礎年金の受給資格期間が25年とされていたときのものです。したがって、今回の受給資格期間短縮により25年が10年に短縮されたことによって、25年の資格期間は満たせないが10年以上の資格期間があるという人に対しては適用する必要がなくなってしまうものも出てきます。ただし、先にもお話したとおり、受給資格期間の短縮というのはあくまでも老齢基礎年金(老齢厚生年金)に係るものであって、遺族基礎年金については直接関係がないということです。そのため、受給資格期間の短縮の実施、つまり、平成29年8月1日から施行されることとなった昭和60年改正法附則第12条の条文では、この点を反映したかたちで条文の改正が行われています。その点はあとで触れることにして、20号の全体を概観してみるとこうなります。

昭和60年改正法附則第12条第1項第1号~第20号

まず、第1号は、大正15年4月2日から昭和5年4月1日までに生まれた人で国民年金の被保険者期間を有する人に対する期間短縮の特例措置(21~24年)となっています。
次に、第2号と第3号は、昭和27年4月2日から昭和31年4月1日までに生まれた人で厚生年金保険の被保険者期間および共済組合の組合員期間を有する人に対する期間短縮の特例措置(20~24年)となっています。
第4号と第5号は、昭和26年4月1日以前生まれの人で40歳(女子、坑内員・船員の場合は35歳)以後の厚生年金保険の被保険者期間がある人に対する期間短縮の特例措置(15~19年)となっています。
第6号は、昭和29年4月1日以前に坑内員であった人の期間短縮の特例措置(16年)となっています。
第7号は、昭和27年4月1日以前生まれの人で昭和61年3月31日までに船員保険の被保険者として漁船に乗り組んだ期間がある人に対する期間短縮の特例措置(11年3か月)です。
以上が主な期間短縮の特例措置で、第8号から第17号までは、国家公務員共済組合、地方公務員共済組合および私立学校教職員共済から年金給付を受けている場合の遺族基礎年金の受給資格期間(25年以上)を満たしているものとみなす特例措置となっています。
また、第18号は共済組合の旧退職年金または減額退職年金の受給権を有している人、第19号は旧通算年金通則法で規定する老齢または退職年金給付の受給権を有している人、第20号は共済組合または私学共済の退職共済年金の受給権を有している人に対して、同時に老齢基礎年金の受給権があることを規定しています。

受給資格期間短縮に伴う改正点と留意点

このように概観してみると、まず第1号の規定は、老齢基礎年金の受給資格に関しては適用されることがなくなることが明らかです。というのは、この特例に該当する人はみな21年以上の老齢基礎年金の受給資格期間を満たしているからです。しかしながら、遺族基礎年金の受給資格を見るうえでは相変わらず適用される余地が残されています。こうしたことを考慮してか、第8号から第17号までの規定は、平成29年8月1日施行の条文では、遺族基礎年金に係る受給資格期間の短縮措置の条文に改変されています。
その一方で、第2号から第7号については改変されることなく、老齢基礎年金の受給資格期間である10年を満たせないが、被用者年金制度や坑内員・船員としての被保険者期間によってこれらの特例に該当すれば老齢基礎年金の受給資格期間を満たしたものとみなされるという規定になっています。新法、つまり昭和61年4月以後であれば、厚生年金保険などの被用者年金制度の加入期間は、国民年金法第5条第1項に基づいて保険料納付済期間とみなされますが、昭和36年4月以後昭和61年3月以前の期間などについては、昭和60年改正法附則の第8条第2項(320~321頁)とこの第12条第1項第2号から第7号および第18号から第20号の規定がないと、老齢基礎年金の受給資格期間を満たしたことにはなりません。

附則第12条第1項各号の規定の切り分け

こうした点を念頭においてか、この昭和60年改正法附則第12条第1項の各号列記前の条文では、老齢基礎年金の受給資格期間短縮のための措置として適用するものと、遺族基礎年金の受給資格期間短縮のための措置として適用するものとが明記されることになっています。
「同法〔国民年金法〕第二十六条ただし書に該当する者〔受給資格期間が10年に満たない人〕(同法附則第九条第一項の規定により同法第二十六条ただし書に該当しないものとみなされる者を除く。)であつて第二号から第七号まで及び第十八号から第二十号までのいずれかに該当するもの」とあるのが老齢基礎年金の受給資格期間短縮措置として適用されるもの(「同法第二十六条ただし書に該当しないものとみな」すこと)を指しており(326頁)、「保険料納付済期間等を有する者のうち、保険料納付済期間と保険料免除期間(附則第八条第一項の規定により保険料免除期間とみなすこととされたものを含む。)とを合算した期間が二十五年に満たない者(同法附則第九条第一項の規定により保険料納付済期間と保険料免除期間とを合算した期間が二十五年以上であるものとみなされた者を除く。)であつて第一号から第十九号までのいずれかに該当するものは、同法第三十七条(第三号及び第四号に限る。)の規定の適用については、保険料納付済期間と保険料免除期間とを合算した期間が二十五年以上であるものとみなす」とあるように、こちらは遺族基礎年金の受給資格を見る場合に適用されるものであることが明記されています(326~327頁)。

 

─── お話を伺っていると、条文の「論理」を丹念に追って行くだけでは、法令は読み解くことが難しく、そこに、法令の全体像を理解することによってしか起動されることのない「推理力」も働かせながら、読み解いていくことで、関係政令・省令・通知に基づく再構成(編集)が可能になり、そうすることで初めて法令の全容が明らかにされてくるのだ、と言われているように聞こえるんですが。

簡単に整理すると、受給資格期間短縮が直接に影響している条文は、老齢基礎年金については国民年金法第26条、老齢厚生年金については厚生年金保険法第42条、それに昭和60年改正法附則の第12条です。国民年金法第26条や厚生年金保険法第42条では、25年と規定したものを10年と書き換えるだけで済みます。10年に書き換えるだけでは済まない条文が昭和60年改正法附則第12条です。
先にも述べたとおり、この条文は、もともとは受給資格期間が25年とされていたときにできた特例措置の条文です。25年が10年に短縮されたのだから適用する必要のなくなった条文は削除すればよいということになるはずです。しかし、実際にはそうはいかないのは、遺族基礎年金については資格期間は25年のままであるため、遺族基礎年金の受給資格を見るうえでは、25年従来の規定がそのまま適用される必要性が残されています。
そして、もう1つ注意しておきたいことは、これも先に述べておきましたが、国民年金の加入期間がなくて、厚生年金保険や共済組合などの被用者年金制度の加入期間しかない人で、しかもその加入期間が昭和36年4月から昭和61年3月までの期間であった場合はどうするか、という問題があります。この場合に効力を発揮するのが附則第12条第1項の第2号から第7号および第18号から第20号の規定です。


─── 
ありがとうございました。

 

大山 均(おおやま ひとし)/年友企画株式会社

1990(平成2)年、法政大学大学院社会科学研究科経済学専攻博士後期課程単位取得満期退学。1990(平成2)年4月~1993(平成5)年3月、法政大学・ルーテル神学大学・国士舘大学で非常勤講師。1993(平成5)4月、年友企画株式会社入社、年金関連図書の編集・制作に従事、現在に至る。

 

■厚生年金保険法総覧 平成30年4月版

規格:B5・1488頁
発行:平成30年5月
ISBN:ISBN978-4-7894-3709-7 C3032 \6500E
定価:本体6,500円+税

 

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