年金時代

【居酒屋ねんきん談義】権丈善一氏・坂本純一氏「第2回社会保障審議会年金部会の議論を巡って」その3

 

権丈善一(けんじょう・よしかず)慶應義塾大学商学部教授。社会保障審議会年金部会および同部会年金財政における経済前提に関する専門委員会委員。社会保障制度改革国民会議委員を歴任。
坂本純一(さかもと・じゅんいち)JSアクチュアリー事務所代表。厚生労働省年金局数理課長として平成16年年金制度改正を担当。
進行:年金時代編集部

年金財政では「実質的な運用利回り=スプレッド」と「実質賃金上昇率」が重要

(その2からの続き)

権丈:この資料(「経済前提が年金財政へ与える影響について」)は、僕が第2回専門委員会で資料請求したものです。僕たちは、公的年金の給付水準については、「所得代替率」で話をします。だから、経済前提の専門委員会で議論している賃金や利回り、そして物価などの変数が所得代替率に与える影響をまとめた資料を作ってほしいと頼みました。この資料の内容については、報告をしてくれた年金局の佐藤さんの発言を紹介させてください。

於:2018年3月9日第4回年金財政における経済前提に関する専門委員会

○佐藤数理調整管理官
年金局数理課の数理調整管理官の佐藤です。私のほうから資料2から4について御説明いたします。資料2、経済前提が年金財政に与える影響について御説明いたします。この資料は第2回の当委員会において権丈委員より、経済前提が年金財政にどのような影響を与えて、最終的に所得代替率にどのように影響するのか整理していただきたいという旨の御発言がありました。そこで、事務局において経済前提が年金財政に与える影響を整理したものです。経済前提が年金財政に影響を与える結果として、マクロ経済スライドの給付水準調整期間が変動するということになりまして、それを通して将来の所得代替率にも影響を与えることになります。
1ページです。

これは御案内のとおりかと思いますが、公的年金は現役世代の保険料を、そのときの高齢者の年金給付に充てるという賦課方式を基本とした財政方式となっております。したがいまして、現役世代の保険料が財源の中心ということになるわけですが、一定の積立金も保有して、それを運用するなどして活用することとしており、それによって将来においても一定の給付水準を確保するという仕組みになっています。
2ページです。

公的年金の財源の中で、積立金の財源がどの程度の割合を占めているかを、平成26年財政検証の経済前提ケースEの結果によりお示ししたものです。2110年までの約100年間の年金給付に充てられる財源構成を見ると、年度によってその構成割合は右側の図にあるように変化していきますが、これを現在の一時金に勘算して平均すると、左側の図にありますように、積立金の運用収入とその元本を充てるということにより、約9%と書いてありますが、約1割ほどの財源が賄われているということになっております。保険料が約7割で国庫負担が残りの約2割となっておりますので、積立金は補助的な役割となっております。
3ページは経済要素がどのようなメカニズムで年金財政に影響を与えるかというものを整理したものです。

賦課方式を基本とした公的年金ですので、当然人口構成の変化による影響を受けますが、ここでは人口要素を除いて考えております。人口要素を除いて考えると、右側の支出と左側の収入ともに基本的に賃金水準の変化に応じて、収入、支出が変化していくという仕組みになっています。
収支の各要素について見ていきますと、右側の支出の年金給付につきましては、新規裁定時は賃金、裁定後は物価スライドによって変動していくという仕組みになっています。この仕組みの下では、長期的にはおおむね賃金上昇に応じて年金給付が増加していくということになります。
一方、左側の収入の大半を占める保険料を見てみますと、賃金の一定割合で保険料が賦課されますので、賃金に保険料収入も連動するということになります。また、収入のうち国庫負担については、給付の一定割合として定まっておりますので、給付のほうが賃金に連動しますと、同様に国庫負担も賃金に連動するようになっております。
このように、収支ともに賃金に連動するという性質により、公的年金においては、急激なインフレとか、激しい経済変動があったときも、現役の賃金水準に応じた財源を確保するということが可能となっておりますので、その結果として、賃金水準として一定の価値のある年金水準を確保することができるという仕組みになっています。
したがいまして、逆に考えますと、収入支出の中で賃金に連動しない部分が、年金財政にとって大きな影響を与えるということになります。これは具体的に記しているのが上の四角囲いの下の部分に書いてありますが、2つほど要素があります。1つは、運用収入は必ずしも賃金に連動するものではありませんので、運用収入のうち賃金上昇との差に当たる部分、つまりスプレッドと言われる実質的な運用利回りが年金財政に影響を与える、重要な要素となるということです。
もう1つ重要な要素となるのが、支出の年金給付についてですが、裁定後は物価スライドということになりますので、この部分が賃金と連動していない部分となります。すなわち、賃金と物価上昇の差に相当する実質賃金上昇率が、もう1つの重要な要素となってきます。
以上、まとめますと、繰り返しになりますが、経済前提において重要な要素というものは、賃金を上回る実質的な運用利回り、つまりスプレッドと、あと実質賃金上昇率との2つということになります。
4ページは、年金給付が長期的には賃金上昇に応じて増加するということを示す資料を付けておりますが、説明は省略させていただきます。

権丈氏

権丈:とてもわかりやい説明ですよね。年金の積立金は規模がものすごく大きく、それゆえに、なかなか誤解されるところがあるのですけれども、年金の給付もものすごく大きいので、向こう約100年を視野に入れたトータルの財源構成を見ていくと、積立金から得られる年金に対する寄与は1割程度でしかないということは、まず押さえていただきたい。加えて、「賦課方式を基本とした公的年金は、人口構造の変化による影響を除くと、収入(財源)、支出(給付)ともに賃金水準の変化に応じて変動することになる。この性質により、激しい経済変動に対しても一定の安定性を確保し、その時々の賃金水準に応じた年金給付を可能としている」も、ものすごく大きな意味を持っていて、日本の公的年金における結構な規模の積立金は、いわゆる経済変動、人口変動をならす機能を担うバッファーとしての役割が期待されていることも重要かと思います。

*後日、権丈氏は「社会保障への不勉強が生み出す『誤報』の正体――名目値で見ても社会保障の将来はわからない」『東洋経済オンライン』(2018年7月25日)を執筆。https://toyokeizai.net/articles/-/229977

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