年金時代

法律で読む平成31年度の年金額

平成31年度(令和元年度)の年金額として、今年度4月分・5月分の年金が6月14日が支払われます。では、その年金額は、法律でどう規定されているのでしょう。年金図書編集者の大山均(年友企画株式会社代表取締役)が法律に基づき読み解きます。

基本となる数値の確認

平成31年1月18日に総務省から前年(平成30年)の年平均の全国消費者物価指数が公表され、これをうけて同日、厚生労働省のホームページで平成31年度の年金額に関する“Press Release”が公表された。厚生労働省の“Press Release”で示された年金額算出のための基本数値は、次のようになっている。
まず、「平成31年度の参考指標」として、物価変動率1.0%の上昇、名目手取り賃金変動率0.6%の上昇、マクロ経済スライドによるスライド調整率マイナス0.2%、前年度までのマクロ経済スライドの未調整分マイナス0.3%があげられている。
このうち、名目手取り賃金変動率については、0.6%上昇の算出根拠として、物価変動率(平成30年の年平均)1.0%の上昇と実質賃金変動率(平成27年度から平成29年度までの平均)0.2%の下落と可処分所得割合変化率(平成28年度)0.2%の下落によるものとされている。これを数式で整理すると、
(物価変動率)1.010×(実質賃金変動率)0.998×(可処分所得割合変化率)0.998≒1.006
となる。
また、マクロ経済スライドによるスライド調整率については、マイナス0.2%の算出根拠について、公的年金被保険者数の変動率(平成27年度から平成29年度までの平均)0.1%の上昇と平均余命の伸び率0.3%を勘案したことによるものとされている。これも数式で整理すると、
(公的年金被保険者数の変動率)1.001×(平均余命の伸び率)0.997≒0.998
となる。
これらの基本数値から、厚生労働省の“Press Release”では、平成31年度の年金額の改定について次の点を指摘している。

○平成31年度の年金額の改定は、年金額改定に用いる物価変動率(1.0%)が名目手取り賃金変動率(0.6%)よりも高いため、新規裁定年金・既裁定年金ともに名目手取り賃金変動率(0.6%)を用いること。
○平成31年度は、名目手取り賃金変動率(0.6%)にマクロ経済スライドによる平成31年度のスライド調整率(▲0.2%)と平成30年度に繰り越されたマクロ経済スライドの未調整分(▲0.3%)が乗じられることになり、改定率は0.1%となること。

年金額改定の基本的なルール:物価変動率、名目手取り賃金変動率がともにプラスで、物価変動率が名目手取り賃金変動率を上回る場合

裁定後の年金額を改定する際の財源は、現役世代の保険料負担によってまかなわれている。現役世代の賃金の伸びが低下している状況で、賃金上昇した分をそのまま現役世代から年金受給世代に所得移転すると現役世代の負担が過重になってしまうことになる。そこで、平成12年の年金制度改正では、裁定後の年金額については、物価上昇分の改定によって購買力の維持を図り、年金の実質価値を守っていくこととされた。具体的には、裁定後の年金額については、65歳以後は賃金スライドを行わず、物価上昇率のみで改定することとし、物価スライドで改定した年金額と賃金スライドを行った場合の年金額との乖離が過大となる場合には賃金スライドを行うこととされた。
そして、平成16年の年金制度改正では、新規裁定年金の年金額は名目手取り賃金変動率の伸び率をもとに改定し、既裁定年金の年金額については物価変動率の伸びに応じて改定されることになった。平成16年の改正では、最終的な保険料水準を法律で定めたうえで、その範囲内で給付を行うことを基本とし、少子化などの社会経済状況の変動に応じて給付水準を自動的に調整するしくみが取り入れられた。これがいわゆるマクロ経済スライドである。
すでに、平成12年の改正の際にも想定されていたように、物価スライドで改定した年金額と賃金スライドを行った場合の年金額との乖離が過大となる場合には賃金スライドを行うこととされたが、平成16年の改正では、これらをはじめとして、年金額改定の基本的なルールが明確化された。

(“Press Release”p.5 https://www.mhlw.go.jp/content/12502000/000468259.pdf

平成31年度については、物価変動率、名目手取り賃金変動率がともにプラスで、物価変動率が名目手取り賃金変動率を上回っているので、上の図の⑥に該当することになる。したがって、平成31年度は、現役世代の負担能力の伸びを上回って既裁定年金を引き上げることはせずに、新規裁定年金と同様に賃金の伸びに合わせて改定することになる。

国民年金の年金額の改定

国民年金の年金額は、法律で定められた額(法定額)に改定率を乗じて算出することになっている。そして、年金額は、毎年度この改定率を改定することによって、改定されるしくみになっている。
現在は、国民年金法第16条の2第1項および国民年金法施行令第4条の2の2の規定によって、マクロ経済スライドによる調整期間中にある。したがって、年金額の改定率の改定は、新規裁定年金の場合は第27条の4、既裁定年金の場合は第27条の5の規定によらなければならない。

 <新規裁定年金の改定率の改定>

国民年金法第27条の4第1項では、新規裁定年金の改定率の改定について規定されている。
先の基本数値から、平成31年度は、公的年金被保険者数の変動率は1.001となるため、調整率は1.001×0.997≒0.998となることがわかる。したがって、平成31年度において改定率を改定する率は、名目手取り賃金変動率1.006×調整率0.998×前年度特別調整率0.997≒1.001となる。

 <既裁定年金の改定率の改定>

一方、既裁定年金の改定率の改定については、国民年金法第27条の5第2項で規定されている。
基本数値から、平成31年度は物価変動率1.010>名目手取り賃金変動率1.006となるため、平成31年度の既裁定年金は、物価変動率ではなく新規裁定年金と同様に名目手取り賃金変動率1.006で改定することになり、名目手取り賃金変動率1.006×調整率0.998×前年度特別調整率0.997≒1.001で改定することになる。

こうして、平成31年度の国民年金の年金額は、新規裁定年金も既裁定年金も、ともに前年度(平成30年度)の改定率0.998に1.001を乗じて改定することになり、年金改定率は0.998×1.001≒0.999となるわけである。

厚生年金の年金額の改定

厚生年金の場合、報酬比例の年金は、年金額計算のもとになる平均標準報酬額や平均標準報酬月額を算出するための再評価率を改定することによって、年金額が改定されるしくみになっている。
厚生年金についても、現在は、厚生年金保険法第34条第1項および厚生年金保険法施行令第2条の規定によって、マクロ経済スライドによる調整期間中にある。したがって、再評価率の改定については、新規裁定年金の場合は第43条の4、既裁定年金の場合は第43条の5の規定によらなければならない。

 <新規裁定年金の再評価率の改定>

まず、新規裁定年金の再評価率の改定については、厚生年金保険法第43条の4第1項から第3項で規定されている。
まず、第1項では、調整期間における再評価率の改定について、名目手取り賃金変動率に調整率と前年度の特別調整率を乗じて得た率を基準とすることが規定されている。
そして、第2項では、第一号で前年度の標準報酬の再評価率の改定について、第二号で前々年度等、つまり前々年度と3年度前の年度の標準報酬の再評価率の改定について、それぞれ規定されている。また、第3項では、当該年度の標準報酬の再評価率の設定について規定されている。
このように第2項と第3項の規定内容を見ると、第1項では、前年度、前々年度・3年度前の年度、当該年度以外の年度、つまり4年度前までの過去の各年度の標準報酬の再評価率の改定について規定されていることがわかる。
これらを整理すると次のようになる。

○4年度前までの過去の各年度の再評価率――[名目手取り賃金変動率×調整率×前年度の特別調整率]で改定
○前年度の再評価率――[可処分所得割合変化率×調整率×前年度の特別調整率]で改定
○前々年度・3年度前の年度の再評価率――[物価変動率×可処分所得割合変化率×調整率×前年度の特別調整率]で改定
○当該年度の再評価率――[可処分所得割合変化率×調整率×前年度の特別調整率]で設定

これに具体的な数字をあてはめてみると次のようになる。

○4年度前までの過去の各年度の再評価率――名目手取り賃金変動率1.006×調整率0.998×前年度の特別調整率0.997≒1.001で改定
○前年度の再評価率――可処分所得割合変化率0.998×調整率0.998×前年度の特別調整率0.997≒0.993で改定
○前々年度・3年度前の年度の再評価率――物価変動率1.010×可処分所得割合変化率調整率0.998×前年度の特別調整率0.997≒1.003で改定
○当該年度の再評価率――可処分所得割合変化率0.998×調整率0.998×前年度の特別調整率0.997≒0.993で設定

 <既裁定年金の再評価率の改定>

次に、既裁定年金の再評価率の改定については、厚生年金保険法第43条の5第1項から第3項で規定されている。
この条文の構成も、第43条の4と同じで、第1項で4年度前までの過去の各年度、第2項第一号で前年度、第二号で前々年度等(前々年度と3年度前の年度)、第3項で当該年度の改定率の規定となっている。この中で特に注目したいのは、第1項第一号のかっこ書きで、「物価変動率が名目手取り賃金変動率を上回るときは、名目手取り賃金変動率」に調整率と前年度の特別調整率を乗じることとされている点である。
厚生労働省の“Press Release”で述べられているように、「年金額の改定は、物価変動率、名目手取り賃金変動率がともにプラスで、物価変動率が名目手取り賃金変動率を上回る場合には、年金を受給し始める際の年金額(新規裁定年金)、受給中の年金額(既裁定年金)ともに名目手取り賃金変動率を用いることが法律により定められています」というのは、この規定によるものである。
この第43条の5第1項から第3項の内容を整理すると次のようになる。

○4年度前までの過去の各年度の再評価率――[名目手取り賃金変動率×調整率×前年度の特別調整率]で改定
○前年度の再評価率――[可処分所得割合変化率×調整率×前年度の特別調整率]で改定
○前々年度・3年度前の年度の再評価率――[物価変動率×可処分所得割合変化率×調整率×前年度の特別調整率]で改定
○当該年度の再評価率――[可処分所得割合変化率×調整率×前年度の特別調整率]で設定

このように、新規裁定年金と既裁定年金の再評価率の改定について見てみると、どちらも同じ改定の仕方になることがわかる。

従前額改定率の改定

厚生年金の報酬比例の年金額については、厚生年金保険法の本則で定められた方法で算出された年金額(いわゆる本来水準の年金額)と平成12年改正法(平成12年法律第18号)附則第21条で定められた方法で算出された年金額(従前額・平成12年改正前水準の年金額)を比較して、後者の年金額のほうが高い場合は後者の年金額が支給されることになっている(従前額保障)。
この後者の従前額を算出する場合には、平均標準報酬額および平均標準報酬月額を算出する際の再評価率は、平成12年改正前の水準(平成6年改正水準)の再評価率を使用することとなり、報酬比例の年金額を算出する際の給付乗率も、平成12年改正前の水準(平成6年改正水準)の給付乗率(5%適正化前の給付乗率)を使用することになっている。そして、報酬比例の年金額の計算式の最後で従前額改定率を乗じることになっている。
従前額改定率の改定について規定されているのは、平成12年改正法附則第21条第4項である。
これによると、マクロ経済スライドによる調整期間中については、厚生年金保険法第43条の5第1項、第4項または第5項の規定の例によって改定することになっている。この第43条の5第1項、第4項、第5項を見てみると、従前額改定率の改定にふさわしい規定としては、第43条の5第1項の規定、つまり4年度前までの過去の各年度の再評価率の改定の規定にしぼられる。この第1項の規定によると、従前額改定率は、名目手取り賃金変動率×調整率×前年度の特別調整率で改定することとされているため、従前額改定率についても名目手取り賃金変動率1.006×調整率0.998×前年度の特別調整率0.997≒1.001で改定することになる。
従前額改定率は、昭和13年4月1日以前生まれの人と昭和13年4月2日以後生まれの人とでは異なっているため、平成31年度の場合は次のようになる。

○昭和13年4月1日以前生まれ:(平成30年度)0.999×1.001=1.000
○昭和13年4月2日以後生まれ:(平成30年度)0.997×1.001=0.998

旧再評価率(平成12年改正前水準)の当該年度分の改定

最後に、上で述べた従前額(平成12年改正前水準・平成6年改正水準)を算出するための再評価率のうち、当該年度、つまり平成31年度(平成31年4月から2020年3月まで)の被保険者期間に対する再評価率の算出について見ておきたい。
この平成12年改正前水準・平成6年改正水準の年金額算出のための旧再評価率の改定に関しては、平成12年改正法附則別表第一の「備考」で規定されている。それによれば、当該年度分の再評価率は、前年度の再評価率を、物価変動率と実質賃金変動率を乗じて得た率(名目賃金変動率)で改定することになる。
この規定に基づいて計算してみると、前年度である平成30年度(平成30年4月から平成31年3月まで)の再評価率0.910を、物価変動率1.010×実質賃金変動率0.998=1.00798で除して改定することになる。そうすると、平成31年度(平成31年4月から2020年3月まで)の再評価率は、0.910÷1.00798≒0.903となる。

マクロ経済スライドによる調整の未調整分の繰越し

国民年金法で新規裁定者の場合の特別調整率に関する規定が与えられているは、第27条の4第3項(既裁定者については第27条の5第3項)である。
それによると、調整期間における改定率の改定について、国民年金法第27条の4第1項では、名目手取り賃金変動率に調整率と特別調整率を乗じるものとされている。この名目手取り賃金変動率に調整率と特別調整率を乗じたものが年金額を算出するための「算出率」と呼ばれることになっている。
第27条の4第3項では、平成29年度の特別調整率が1と規定され、そのうえで、平成30年度以後の特別調整率の改定が規定されている。実は、この第27条の4の中に、マクロ経済スライドによる調整の未調整分の繰越しのしくみが組み込まれている。厚生年金の場合もほぼ同様であるので、ここでは国民年金の新規裁定者の場合について見ておくことにしたい。

 <ケース1:部分繰越しの場合>

まず、国民年金法第27条の4第1項の算出率の規定に関わるかっこ書きでは、名目手取り賃金変動率に調整率と前年度の特別調整率を乗じて得た率(算出率)が1を下回るときは、1とするものとされている。これはどういう意味か。
調整率と特別調整率はいずれも年金額の伸びを抑制するものであるので、1を下回る数値となる。名目手取り賃金変動率に1を下回る数値を2つ(調整率と前年度の特別調整率)乗じた場合、名目手取り賃金変動率の数値がある程度の大きさでなければ結果は1を下回ってしまう。言いかえれば、名目手取り賃金変動率の伸びが十分ではない場合には、算出率は1を下回ることになる。
算出率が1を下回ったときは、特別調整率は名目手取り賃金変動率に調整率を乗じて得た率を算出率1で除することになり、特別調整率は名目手取り賃金変動率に調整率を乗じて得た率となる。この場合、特別調整率には、調整率が名目手取り賃金変動率の分だけ緩和されたかたちで取り込まれることになる。言いかえれば、調整率がそのまま繰り越されず、名目手取り賃金変動率の分だけ抑制された率で繰り越されることになるわけである。つまり、名目手取り賃金変動率の伸びが十分ではないというのは、景気がそれほどよくはない状況を反映しているといえる。

 <ケース2:全部繰越しの場合>

次に、国民年金法第27条の4第3項の特別調整率の改定が規定されている条文では、特別調整率の改定は、名目手取り賃金変動率に調整率を乗じて得た率を算出率で除して得た率で改定するとされている。そして、かっこ書きでは、名目手取り賃金変動率が1を下回るときは調整率で改定するものとされている。これは、名目手取り賃金変動率が1を下回るときは調整率で特別調整率を改定するということである。
調整率で特別調整率を改定するというのは、特別調整率に調整率を乗じるので、そのまま調整率が特別調整率に入っていくことを意味する。言いかえれば、名目手取り賃金変動率が1を下回るというのは景気が低迷している状況であって、このような場合には、調整率がそのまま特別調整率として繰り越されるというわけである。

 <ケース3:繰越しの解消・調整の完全実施>

では最後に、算出率が1以上の場合とはどういうことか。
算出率=名目手取り賃金変動率×調整率×前年度の特別調整率>1となることからわかるように、これは名目手取り賃金変動率が十分に上昇しているときで、この場合には、特別調整率は、名目手取り賃金変動率に調整率を乗じて得た率を算出率で除して得た率で改定される。
(名目手取り賃金変動率×調整率)÷(算出率)
=(名目手取り賃金変動率×調整率)÷(名目手取り賃金変動率×調整率×前年度の特別調整率)=1÷(前年度の特別調整率)
となるので、これによって特別調整率が改定されるときというのは、この計算式を前年度の特別調整率に乗じることになるため1となり、未調整分の繰越しがなくなることを意味している。これは、名目手取り賃金変動率が十分に上昇しているような状況で、景気の良好な状況を反映しているといえる。

以上を踏まえて、平成31年度の特別調整率について見てみると、名目手取り賃金変動率は1.006、調整率は0.998、前年度の特別調整率は0.997となっているので、算出率=名目手取り賃金変動率1.006×調整率0.998×前年度(平成30年度)の特別調整率0.997≒1.001>1となる。そして、名目手取り賃金変動率1.006>1であるので、平成31年度は、ケース3に該当することになる。
こうして、“Press Release”にあるとおり、平成31年度はマクロ経済スライドによる調整とともに繰り越された未調整分も完全実施されることになるわけである。

 

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