年金時代

インタビュー 水島 藤一郎・日本年金機構理事長

第3期中期計画では
機構のミッションに立ち返り
「未来づくり計画」を策定します

日本年金機構では、ガバナンスや組織風土を抜本改革する「日本年金機構再生プロジェクト」を平成27年12月に策定・公表。平成28年度からの3年間を集中取組期間として、今年3月末まで取り組んできた。4月には、これまでの再生プロジェクトの取組状況を総括した「日本年金機構再生プロジェクトの歩み~未来づくりへのバトン~」をとりまとめた。日本年金機構は再生プロジェクトにどう取り組み、それをどう総括したのか。そして、第3期中期計画に基づく「未来」をどうつくっていくのか、水島藤一郎日本年金機構理事長に聞いた。

水島藤一郎(みずしま・とういちろう)
【略歴】一橋大学を卒業後、三井銀行に入行。三井住友銀行副頭取を務めた後、平成17年に独立行政法人年金・健康保険福祉施設整理機構理事長に就任。平成25年1月から現職。

お客様の期待する未来を
追求・実現する取組みに転換
―未来づくり計画策定の背景・目的

――日本年金機構では、厚生労働大臣から示された平成31年4月から令和6年3月末までの第3期中期目標を達成するための第3期中期計画において、「複雑化した年金制度を実務として正確かつ公正に運営し、年金受給者に正しく確実に年金をお支払いすることにより、国民生活の安定に寄与すること」という機構のミッションを果たすため、「制度を実務に」を基本コンセプトに、「日本年金機構の未来づくり計画」に取り組むことを基本方針とする、とされています。そこで、なぜ、第3期中期計画を「未来づくり計画」として策定され、機構のミッションに取り組んでいこうとしているのか、お聞かせください。

日本年金機構は平成22年1月に設立され、今年で10年目を迎えます。設立された当初の大きな課題が年金記録問題の早期解決でしたが、私が平成25年1月に理事長に就任して、まもなく、時効特例問題が発生しました。これも年金記録問題に端を発したと言いますか、記録訂正に伴って時効を撤廃する法律のなかで、この事務処理に対応している最中、業務処理の不統一があったことが判明しました。加えて事務処理面でいくつかの問題が発生しました。それというのも、年金業務の主力部隊を年金記録問題に投入していたこともあり、現場の体力が落ちていたことがあったと思います。その結果、いろいろな派生的な問題が発生することになったのです。

年金記録問題について、平成25年度までの第1期中期計画(平成22年1月~平成26年3月)では、「ねんきん特別便」など各種のお知らせ便により、お客様にご自身の年金記録をお送りして、漏れや誤りがないかどうか確認をお願いしてきました。また、紙台帳とコンピュータ記録との突き合わせにより、記録の誤りを正していく作業を進め、年金記録問題の解決を最優先課題として取り組んできました。

平成26年1月、社会保障審議会日本年金機構評価部会年金記録問題に関する特別委員会が、年金記録問題についての今後の対応方針や対応策を提言し、機構の第2期中期計画(平成26年4月~平成31年3月)に検討材料を提供するという報告書をまとめました。また、機構でも平成26年3月までに各種お知らせ便による記録確認や紙台帳・コンピュータ記録との突き合わせの作業を概ね終了しました。こうしたことから、ようやく、年金記録問題は一つの節目を迎えることができたのです。

そして、前を向いて進もうということで、平成26年4月からの第2期中期計画が始まったのですが、平成27年5月に不正アクセスによる情報流出事案が発生し、機構が保有する個人情報の一部約125万件、約101万人分が流出しました。平成27年9月には、厚生労働大臣より業務改善命令が発せられ、「組織としての一体感の不足」「ガバナンスの脆弱さ」「リーダーシップの不足」「ルールの不徹底」といった構造的な問題に対して、抜本的な解決に向けた業務改善計画の策定・提出を求められることになりました。

業務改善計画の策定にあたっては、平成27年10月、理事長である私自身が本部長となり、日本年金機構再生本部を設置して、①組織の一体化・内部統制の有効性の確保、②情報開示の抜本的な見直し、③情報セキュリティ対策の強化の3つを柱とする業務改善計画を策定し、平成27年12月、厚生労働大臣に提出しました。このうち、①組織の一体化・内部統制の有効性の確保、②情報開示の抜本的な見直しについては、日本年金機構再生プロジェクトとして策定し、平成28年度からの3年間を集中取組期間として推進していくことになったのです。

ところが、再生プロジェクト期間中にも新たな課題が発生しました。本来支給されるはずの振替加算が適正に支給されていないことに対し、振替加算に関する総点検を行ったところ、10万5,963人、約598億円の支給漏れが判明したのです。機構ではその調査結果を平成29年9月に公表しました。

平成30年には、年金受給にかかる扶養親族等申告書の事務において、それを請け負った事業者が多くの入力漏れ、入力誤りを発生させ、①源泉徴収票の表示誤り(約55万人)、②入力漏れによる源泉徴収税額の誤り(約7.9万人)、③入力誤りによる源泉徴収税額の誤り(約7万人)といった多くの受給者に影響を及ぼす事態も発生しました。

このように、第1期及び第2期中期計画期間では、年金記録問題や不正アクセスによる情報流出事案などの問題事案に対処し、過去の負の遺産を精算してきました。そこでは、大変厳しいご批判をいただきましたが、機構発足からこれまでは問題解決と再発防止に組織を挙げて取り組んできた10年だったかと思います。

また、再生プロジェクトでは、組織改革、業務改革、人事改革、情報開示・共有の促進を柱に、主として内部統制面の改革、いわゆるガバナンス改革を推進していくことを目的として、具体的には71の改革項目に取り組みました。業務改善計画の①組織の一体化・内部統制の有効性の確保ということでは、組織改革、業務改革及び人事改革を進めることにより、組織の一体化を図り、内部統制の有効性を確保してきました。また、②情報開示の抜本的な見直しでは、情報開示と共有を促進し、透明性を確保し、お客様に安心していただける組織を構築してきました。

再生プロジェクトに基づく業務改善はおおむね一定の成果は上げてきたと考えていますが、この改革を職員がどのように捉えどのように評価しているかということが大きなポイントになります。そこで、再生プロジェクトの総括にあたり、71の改革項目に関して職員アンケートを実施しました。その結果を見ると、71項目全体の平均で「肯定的割合」が72.5%、「否定的割合」が15.5%となりました。また、否定的と言っても、施策そのものを否定するものではなく、改善すべき点があるといった前向きな回答がほとんどでした。その意味では、再生プロジェクトは、一定の成果を得たと考えています。

そうしたことから、機構の職員に対して、「未来づくり計画」には、「過去」を振り返り対処するばかりではなく、急速に進展する高齢社会を支え、わが国の社会の安定を確保する機構の役割、その原点に立ち返り、改めて前を向いた組織に変わるという意識を持って仕事をしていこうとメッセージを込めているのです。そして、日本年金機構になって、何をなすべきかということを、本来のミッションに立ち戻って、もう一度組織のあり方、施策のあり方など全体を見直して、国民を向いた、お客様を向いた、計画づくりをしようというのが「未来づくり計画」策定の目的なのです。

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