年金時代

対談 日本年金機構10年のあゆみを振り返るー模索と基盤づくり、そして再生への途ー

社会保険事務局を廃止し
全国一体の組織に

山崎 新たな組織基盤を確立しなければいけないということになりますが、その点はいかがでしたか。

薄井 スタートしたときに、各都道府県にあった社会保険事務局は全部廃止になりました。第一線の機関として年金事務所があり、年金機構本部と、地方厚生局で認可をとるわけなのでそれにほぼ対応する形で9つのブロック本部が置かれました。年金機構本部、ブロック本部、年金事務所、年金事務所と並列するかっこうで各都道府県に事務センター、こういう形でスタートしました。その後、事務センターの集約が始まりました。また、現在はブロック本部もなくなりました。

山崎 社会保険事務局は三層構造の一つの象徴的なものでしたね。中央と現場との意思疎通がなかなかスムーズに進まないという……。

薄井 そうですね。翻って考えますと、平成12年までは機関委任事務でしたから、人事は別として法令には書かれていないいろいろな業務の進め方を都道府県で決めるということですね。それが、平成12年4月からは地方分権改革によって年金事務が国の直接執行事務になりました。ただ、ローカルルールが部分的に残っているという問題がありました。事務処理マニュアルの整備など年金機構になるときもしましたし、その後もブラッシュアップしてきましたが、やはりローカルルールのようなものは残っていたと思います。

山崎 年金事務は国の直接執行事務にはなったけれど、機関委任事務の時代、地方に権限が与えられていた時代の仕事のやり方が残っていました。

薄井 そうですね。変えてきているのだけれど、まだ追いついていなかったところがありました。

山崎 それから職員団体との関係が懸念されていましたが。

薄井 社会保険庁の最後の頃は、職員団体の人と話をするときも、やはり改革はきちんとしなければいけない、いわゆるお客様目線で仕事をしなければいけないというところでは、気持ちは一つになっていたのではないかという感じはしました。年金機構になってからも、もちろん労働組合ですから労働組合の立場での主張は当然ありますけれど、それは、年金機構の仕事がきちんとできる、そのためのマンパワーという観点での主張だというように私は理解していました。私も、社会保険庁には、若い頃、中堅くらいの頃、店じまいの頃、それぞれの時期にいましたが、その間に雰囲気は違ってきたのではないかという感じはしました。年金機構になってからは、健全な関係になってきたと思っています。
それから、三層構造からの脱却ということで全国一体の人事となりました。全国異動というのは組織一体化の手段であって目的ではないと思いますが、全国異動も相当進んでいます。また、年金機構になってから採用された職員が毎年数百人規模でいるので、彼らのボリュームも結構大きなものになっていると思います。

山崎 年金機構になってからは、最初から中央での直接採用となりましたね。

薄井 年金機構では、各都道府県で採用された人、本庁採用の人、厚生労働省から出向してきた人、民間から採用された人など、いろいろな出身の人たちがいます。これらの人たちの力をどうすれば一番よく発揮できるのか、このことは常に意識をしていました。口で言うのは簡単ですけれど……。

山崎 それは大変だと思います。育ってきた文化とか仕事のやり方、意識も違うでしょうから。

薄井 やっぱり、国民という言葉ではなくてお客様という言葉、お客様第一で仕事をしなければいけないということです。お客様第一とは、お客様の言うとおりにすることではなくて、お客様の立場も考えながら、ルールを踏まえてきちんと説明しながらやっていくということだと思います。
それからお客様サービスというと、普通年金相談で丁寧にやりますということだけイメージされてしまうと思います。しかし、紀陸孝初代理事長も言っておられましたが、適用にしても徴収にしても、これら全部が最後は回りまわってお客様サービスにつながるのだと思います。第一期中期計画の時期にこういう感覚はかなり身に付いてきたと思いますし、組織風土改革ということも結構意識してやりました。

山崎 それは本当に様変わりですよ。私も年金事務所を訪ねたり、電話したこともありましたが、本当に変わりました。お見事だと思いますね。ただ年金機構だからというのではなくて、日本の行政全体に欠けているものを教えてくれた、気付かせてくれたような気がするのです。お客様サービスに徹するということです。

薄井 お客様という言葉に、最初の頃は大分抵抗があったと思います。最近、自治体でも駅前に住民票がとれる所ができたり、日曜日も場合によれば受け付けるなどのサービスもありますから、世の中全体が、お上目線ではなくなってきていることは事実だと思います。

山崎 それはいいことですね。

薄井 年金機構も、そこは遅れないようにしてきたと思っています。
もう一度第1期中期計画にもどります。年金記録問題は、課題はありますが第1期中期計画期間で一つの節目を迎えたと思っています。もちろんいまも1800万件強の未統合記録が残っているし、いろいろなチャンスを通じてつなげていく努力はずっと必要です。
それから、適用、徴収、給付という本来業務ですが、たしかに手薄になっていたところもありますが、努力が必要だということで、第2期中期計画のときには基幹業務に力を入れるという話につながっていくわけです。
そして、事務処理誤りや第3号不整合問題、時効特例給付の解釈をめぐる問題など、いろいろな問題もこの期間を通じて出てきました。それはやはりガバナンスがまだ徹底してなかった、あるいはお客様目線という点でまだ問題があったということだと思っています。

山崎 事務処理誤りが毎月公表されていますが、あれはすごいことですね。かつての社会保険庁を知っていると特にそう思います。
いま見ても実に多いですね。しかし人間がやることだから起こり得ることです。それをまず公表して、再発防止に努めるということですね。

薄井 全件公表するという方針でやっているのですが、記録問題を整理する過程で実は過去の誤りが発見されるというのも結構あります。いま公表しているものの全部が年金機構になってから起きた事案ではありません。旧社会保険庁時代に発生したものが最近になってわかったというのもかなりあるのです。しかし、そうであっても、そこはきちんと対応しなければいけません。
これだけたくさんの仕事をしているから一定程度のミスは発生するのだという考え方もあると思います。たしかにそうかもしれないですが、ミス率・事故率が低いからいいということでは絶対にありません。やはり一人ひとりにとってはすべてだという考え方で取り組まなければいけません。
特に問題なのは、誤送信・誤送付や、事務処理遅延、書類の紛失、これらは絶対にあってはいけないわけです。最近では撲滅という言葉を使っていますが、徹底的にゼロを目指すということでやっていると思います。

山崎 職員の研修が非常に大事ですね。年金は法改正の度に難しくなっていきます。私も、基礎年金制度発足当初の頃までは勉強していたのですが、いまはもっと複雑で様相が変わりました。

薄井 旧法に関していうと経過措置もかなりあって、基礎年金制度導入のときに新しい制度をある程度シンプルにしましたが、その後また制度改正があって複雑になっています。基本的には記録問題については時効がないですから、旧法のこともきちんとわかってる人がいないといけません。相談の研修の充実というのは、内部でかなり議論はしていました。

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