年金時代

対談 日本年金機構10年のあゆみを振り返るー模索と基盤づくり、そして再生への途ー

第2期中期目標・計画期間
再生プロジェクトに取り組む

山崎 第2期中期計画に入りますが、薄井さんはその途中まで年金機構にいらっしゃった?

薄井 そうですね、全部の期間いたわけではありません。平成27年12月までいましたから、前の3分の1くらいまでいたというところです。
平成27年5月にはいわゆる不正アクセスによる個人情報の流出問題がありました。多くの年金個人情報の流出があったということで、6月に公表して対応を進めました。私は副理事長ですけれど、最高情報セキュリティ責任者という立場にもありましたので、その任を十分に果たせなかったということは本当に反省しております。一方、この問題はシステムの問題にとどまらず、いろいろなルール、たとえば個人の情報はここにずっと置いておいてはいけないというにもかかわらず、置いてあったりしたわけです。そういう問題も含めて、年金機構のガバナンスという点でまだまだ問題があったということです。本部から年金事務所という第一線を含めた一つの組織としての意思疎通が十分にできていたかということが批判されました。厚生労働大臣からは業務改善命令が出ましたので、それを受けて業務改善計画をつくり、単なる業務改善という後ろ向きな姿勢ではなく、年金機構という組織を再生させるのだという姿勢で、再生プロジェクトという形で取り組むことになりました。これは平成28年度から平成30年度までの3か年間を集中的な対応期間としました。
私は平成27年の12月で退任しましたので、再生プロジェクトと業務改善計画のできるときまでいました。
このほか私の退任後ですが、振替加算の問題や、業務の外部委託をめぐる問題などもありました。いろいろ問題はありましたが、私は、やはり第2期中期計画期間は、本来業務に全力を注ぐべき期間だと思っていました。基本理念などは引き続き踏まえるのは当然として、そのなかできちんと本来業務をこなしていくことを目指すということです。この点は、国民年金の収納率の改善にも現れているように、職員の皆さんにもかなり頑張っていただいたと思っています。

山崎 結局考えてみると、不祥事から出てきたものではあるのでしょうが、この業務改善計画が、本来業務をより強固にするプロジェクトでもあったのですね。年金記録問題とは違いますね。

薄井 組織改革ということで、定員も限られていますから、まずブロック本部の機能の多くを本部に持ってきて、地域部というものを本部につくり、東京の本部で仕事をする形にしました。それから事務センターの集約もさらに進めることにして、その分効率的に仕事をするようにしました。そういう意味では、この取組みは非常によかったと思います。
この一連の流れとはちょっと違いますが、障害年金については、これまで事務センターで裁定をやっていましたが、障害年金の裁定の不統一という指摘を受けていました。もともと厚生年金は中央で裁定し、国民年金は地方で裁定していましたが、特に国民年金については県ごとのばらつきという指摘がありました。そこで障害年金センターというものをつくり、地方にある程度サポートしてもらいながら全国1か所でやるという体制にしました。

山崎 その他、業務改善計画に関連して、業務委託の問題はいかがですか?

薄井 業務委託は昨年大きな問題になりましたが、実はそれまでも時々問題になっていました。国の機関ですと単年度契約が原則です、市場化テストは複数年度契約がありますけれど、基本的には単年度契約です。しかし、年金機構になって複数年度契約ができるようになりました。また、単なる入札だけではなくて、サービス・レベル・アグリーメント(SLA)を結んで一定のサービスレベルに達している業者は優先的に次の仕事をやれるという仕掛けも導入しました。
しかし、やはり価格中心という感覚が世の中の空気としてかなりあったことも事実で、そういうなかで安かろう悪かろう業者の排除をどうするのか、本当に頭の痛い問題でした。うまくワークしない業者は契約を解除して次の入札には参加させない、ということをいくつかやりました。しかし、事後的ですから、その業者が仕事ができなかった分はその間職員がカバーしなければならないわけです。これではいけないので、やはりきちんと仕事のできる業者にやってもらえるようにしなければなりません。安いほうがいいと皆思うのですが、安くてもその分職員に手間暇がかかるということであれば、トータルではけっして国民のためにならないわけです。
いまは価格とサービスの中身との両方を見て評価をすることになっています。技術力などの側面をより評価しやすいような手法を取り入れているようです。

山崎 業務運営の問題はどうでしょうか?

薄井 業務運営ということで見たときに、まず国民年金の適用促進の話からしましょう。これは社会保険庁の最後の頃からですが、住民基本台帳の情報をもらって適用するいわゆる職権適用を行っています。第1号未加入者というのは、ゼロではありませんがかなり少なくなってきました。
それから厚生年金の適用では、平成27年度、ちょうど私の在任最後の年ですが、国税の源泉徴収の情報をもらって仕事をするようになりました。これは給与を支払っている人がいる、所得税を源泉徴収されている人がいるという情報です。もちろん、そのまま厚生年金の適用ということにはつながりませんが、かなりの確度で問題のある事業所を捕捉できるようになりました。いわゆるパート適用もありますからそれだけの効果とはいえませんが、適用事業所は200万を超え、いま222万くらいになっていますし、被保険者も3900人を超えるところまできています。今年の3月の数字も間もなく出てきますが、さらに大きくなっていると思います。
もちろんいくつか課題はありますけれど、適用面ではかなりできてきたのかなという感じがします。
それから収納のほうは、厚生年金の徴収というのはもともと悪くないので、上限に近いです。それでも少しずつ良くなっています。
問題は国民年金の収納ですが、いろいろな分析をして、属性に応じてどこまで手を打てばよいのか、かなり積極的に取り組んできました。収納率は平成27年度分の最終納付率では73%まで上がりましたから、そういうことの効果が、ここで現れてきたという感じです。平成28年度分の結果も間もなく出てくると思いますが、その数字もよりアップするだろうと期待しています。

 

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