2019/10/23掲載
公的年金 年金部会が繰下げ制度と在職定時改定について議論
厚生労働省の社会保険審議会年金部会(部会長=神野直彦・日本社会事業大学学長、東京大学名誉教授)は10月18日、高齢期の就労と年金受給の在り方について議論。厚労省からは①繰下げ制度の柔軟化②在職定時改定の導入――についての資料が提示された。
現行制度では、公的年金の受給開始時期は、原則として、60歳から70歳の間で選ぶことが可能だ。65歳より早く受給開始(繰上げ受給)した場合には、年金額は減額(1月当たり▲0.5%、最大で5年間の繰上げで▲30%)される。65歳より後に受給開始(繰下げ受給)した場合には、年金額は増額(1月当たり+0.7%、最大で5年間以上の繰下げで+42%)される。「高齢期の就労の拡大等を踏まえ、高齢者が自身の就労状況等に合わせて年金受給の方法を選択できるよう、繰下げ制度について、より柔軟で使いやすいものとする」(厚生労働省年金局)というのが見直しの意義だ。
そこで、厚労省が示す見直しの方向が次のとおり。
⑴繰下げ受給の上限年齢の引上げ ○現行70歳の繰下げ受給の上限年齢を75歳に引き上げる(受給開始時期を60歳から75歳までの間で選択可能に) *改正法施行時点で70歳未満の者について適用 ○繰上げ減額率は1月当たり▲0.4%(最大▲24%)、繰下げ増額率は1月当たり+0.7%(最大+84%)とする(繰上げ受給する期間および繰下げ受給する期間のそれぞれの期間内において、数理的に年金財政上中立となることも基本として設定) ⑵上限年齢以降に請求する場合の上限年齢での繰下げ制度 ⑶70歳以降に請求する場合の5年前時点での繰下げ制度 |
図表●繰下げ受給の上限年齢の引上げ
出所:第12回社会保障審議会年金部会 資料1「繰下げ制度の柔軟化」厚生労働年金局 2019年10月18日(以下同様)https://www.mhlw.go.jp/content/12601000/000558227.pdf
図表●上限年齢以降に請求する場合の上限年齢での繰下げ制度
図表●70歳以降に請求する場合の5年前時点での繰下げ制度
委員からはおおむね賛成する意見が出されたが、減額率や増額率のしくみがわかりづらいという指摘があり、制度改正を行う場合はていねいでわかりやすい説明をするべきという意見が出された。また、繰上げや繰下げのメリットとデメリットについても現場でしっかりとした説明を行えるよう求める声もあった。
また、オプション試算では示されなかった在職定時改定の導入についても提案された。現行は、老齢厚生年金の受給権を取得した後に就労した場合、資格喪失時(退職時・70歳到達時)に、受給権取得後の被保険者であった期間を加えて、老齢厚生年金の額を改定する退職改定を行う。高齢期の就労拡大を踏まえ、退職を待つことなく就労を継続したことの効果を早期に年金額に反映し、年金を受給しながら働く在職受給権者の経済基盤の充実を図ることを目的としている。そのため、65歳以上の人は在職中であっても年金額の改定を定時(毎年1回)に行うことを検討することが示された。
委員からは就労のインセンティブを高めることにつながるといった肯定的な意見もあった。一方、現場での対応が可能であるか疑問視する声や、この制度が導入されると年金財政に約800億円の影響があるとされることから、将来世代の所得代替率にマイナスの影響があることを懸念する意見なども複数出された。