年金時代

【書評】井戸美枝著『一般論はもういいので、私の老後のお金「答え」をください!』(評者:井出真吾さん)

年齢・性別・職種を問わず
老後のお金「答え」が見つかります

多くの人が老後への不安を抱き、公的年金や人生のマネープランなどをしっかりと理解する必要性を感じてはいても、「難しそう」とか「まだ先のことだから…」と、後回しにしているのが実情でしょう。本書はこのような“意識は高いが腰が重い” 人にうってつけだと思います。
本書を手に取ったら、まず本書の最大の貢献といえるCHAPTER2の目次を見ると良いでしょう。『一般論はもういいので、私の老後のお金「答え」をください!』というタイトルのとおり、「シングル、定年まで働く」、「共働き・公務員夫婦」、「派遣→正社員登用を迷い中」といった具合に、多様化したライフスタイルごとに、さらに年収水準も50万円刻みなどで細かく設定して、それぞれ年金がいくらもらえるか「答え」を提示してくれています。自分に近いケースの「答え」は今すぐ役立つはずです。
逆に言えば、今の自分には関係ないページもあります。例えば現在シングルの人にとって共働き夫婦のケースは“現時点では”関係ありません。定年まで今の会社に勤めるつもりの人にとっては、「50歳直前で独立、友人と会社設立」というケースもとりあえずは無関係でしょう。しかし、いつライフスタイルが変わるかわかりません。今の自分には関係なくても“将来の自分”が関係するかもしれません。その意味で、ひととおり読み終えた後もずっと近くに置いておくべきバイブル的な1冊です。
初級者に読みやすく工夫されているのも本書の特徴です。お金の本というと、“複利”や“現在価値”などの専門用語とその解説が付き物ですが(しかも数学の知識が必要で、大抵そこで挫折する)、本書には数学的な表現がほとんど使われていません。また、多くのトピックが見開き2ページで構成されていて、右ページは少ない文章でポイントを解説しつつ、左ページにはイラストや図表が配置されています。取り急ぎ概要だけ知りたい人や文章を読むのが苦手な人はイラストでざっくり理解して、気になる部分は文章で確認するのも良いでしょう。

本書の構成順に追っていきます。
CHAPTER1:お金に困らない人生のルール
イントロのこの章では、「人生100年を25歳ずつ4つの時期に区切ってお金との関係を整理する」、「収入の範囲で暮らす姿勢」など基本的な考え方に加えて、日経WOMAN公式サイトによるアンケート結果から、8割超の人が老後のお金に不安を感じている一方、7割以上の人が自分の年金額を把握していない実態が紹介されています。決して自分だけが勉強不足ではないことがわかるでしょう(だからといって安心してはいけませんが)。そのうえで20代~60代それぞれが実践するべきToDoリストを5項目ずつ紹介しています。

CHAPTER2:私の年金、「答え」をください!
先ほど述べたライフスタイル別・年収別の「答え」はもちろん、「井戸’s アドバイス」も必見です。「出産後も派遣会社を辞めずに厚生年金の加入を維持する」、「海外留学中も国民年金に任意加入する」など、年金額をもっと増やすためのワンポイント・アドバイスは、“目からウロコ”がたくさんで大いに参考になるでしょう。「ねんきん定期便のトリセツ」なども実践的な内容です。

CHAPTER3:「老後のお金」年代別ToDoリスト
ファイナンシャル・プランナーであり社会保険労務士でもある著者の豊富な経験に基づき、シングルと夫婦世帯それぞれの「老後に必要なお金」を試算したうえで、ToDoリストを詳細に解説しています。CHAPTER1のToDoリストは年代別だけでしたが、この章では「シングル」なら「一人暮らし」と「親元暮らし」の別に、配偶者がいる世帯向けには「子供なし」と「子供あり」といった具合に細分化されているので、より自分に合うケースが見つかるでしょう。ドリル形式で空欄に月収や支出額、預貯金の額などを埋めていくと、お金周りの“わたしの健康診断表”が出来上がる便利さも。毎年1回、たとえば自分の誕生日に最新の状況を確認するのにも役立つので、記入する前にコピーを取っておくと良いでしょう。この章の「井戸’s アドバイス」も具体的で実践的です。

CHAPTER4:iDeCoとつみたてNISAで「じぶん年金」
誰でも豊かな老後を送りたいものですが、公的年金や退職金だけでは足りないケースも少なからずあります。そうした事態に備える有力な手段として国が導入した優遇制度の活用を紹介していますが、単に制度を解説するのではなく、金融機関の選び方や口座の手続き、申込書の書き方まで図解してあり、著者のきめ細やかさを感じます。

CHAPTER5:年金は増やせる! 受け取り方&働き方
書籍の後わりに近い章はあまり重要でない(おまけ的な)内容が書かれていることも多いですが、本書はそうではありません。章のタイトルのとおり、むしろ全ての読者がしっかり読むべき内容です。ここでも会社員、フリーランス、パートといった様々な働き方について、自分の年金額を増やす方法が具体的に示されているほか、「夫に先立たれた場合」や「離婚したら…」などについて詳しく解説されています。望まなくても直面してしまう可能性があることなので、もしもの場合に備えて概要を知っておくことは大事でしょう。

CHAPTER6:(対談)年金不安で「カモられない」ために知っておくべきこと
冒頭に本書の肝はCHAPTER2だと述べましたが、それは「公的年金が崩壊しないこと」が大前提です。日本では少子高齢化に便乗した年金不安を煽る論調が無くならないともあって、「どうせ年金なんてもらえない」と本気で考えている人もいるようですが、本章で慶應義塾大学の権丈教授が極めて明快に年金崩壊説を否定しています。また、「年金は貯蓄ではなく保険である」という、一瞬、首を傾げてしまいそうな重要事実についても、著者の疑問に権丈先生がわかりやすく答える形で読者の理解を深めています。最初にこの対談を読んでからCHAPTER1に戻るのもお薦めです。

最後に、本書はタイトルだけでなく表紙やイラストも女性向けのテイストですが、男性にも役立ちます。シングルなら男性も女性も関係ありませんし、年金の額は主に働き方と受け取り方で決まるので、やはり男女の違いは関係ないからです。そして、夫婦の年金が合計どのくらいか共有したうえでライフプランを一緒に考えることは、自分たちのためにも子供のためにも重要でしょう。本書は年齢・性別・職種を問わず、幅広い人に役立つと思います。

『一般論はもういいので、私の老後のお金「答え」をください!』
井戸美枝 著
日経BP
本体1,500円+税
2020年4月刊
井出真吾(いで しんご)
ニッセイ基礎研究所 上席研究員 チーフ株式ストラテジスト
専門は株式市場・株式投資・マクロ経済。科学的かつ客観的な分析とわかりやすい解説は定評があり、新聞・テレビ等メディア露出も多数。企業・新聞社主催のセミナーのほか、学会活動にも取り組む。著書に『本音の株式投資』、『株式投資 長期上昇の波に乗れ!』、共著に『ROEを超える企業価値創造』(いずれも日本経済新聞出版社)がある。

 

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