年金時代

【書評】玉木伸介著「人口減少・高齢化社会の金融環境と年金その他の金融仲介の在り方」[証券アナリストジャーナル2020.4所収](評:斎藤航)

 

「人口減少・高齢化社会の金融環境と年金その他の金融仲介の在り方」
玉木伸介 著
日本証券アナリスト協会発行『証券アナリストジャーナル』2020年4月号(第58巻第4号)所収
https://www.saa.or.jp/learning/journal/each_title/2020/04.html

 

年金をマクロの観点から捉えることの重要性、金融仲介と高齢者の関係について考えさせられます。

「1.はじめに」から始まる本論文は以下のように構成されています。
2.人口減少・高齢化社会の金融環境
3.金融仲介における年金の位置づけ
4.環境変化と金融仲介レジームの適合
5.今後の課題

本論文で注目すべきは3章から5章です。3章では、金融仲介における年金の位置づけについて検討しています。世の中には資金が不足している主体と資金が余っている主体が存在します。こうした主体の間に入り、資金余剰主体から資金不足主体へと資金の移転がスムーズに行われるようにすることを金融仲介といいます。本論文では、いくつか種類がある年金のうち、「資金運用を伴うものはいずれも金融仲介の要素を含む」と指摘します。年金は、自分が若い時に払い高齢になったらもらうというミクロの視点で見がちですが、こうしたマクロの金融の視点から年金を考える必要性があることを本論文は訴えています。

4章では、年金も含まれる金融仲介全体の基本的な枠組みの変化を2つの典型的な時代を比較しながら検討しています。「生産年齢人口がどんどん増加し、また、技術進歩も急速で潜在成長率の高かった昭和(高度成長期)」と、「少子高齢化と生産年齢人口の減少基調が定着し潜在成長率が低水準にとどまるとした場合の令和」との比較です。現役世代が豊富に存在した昭和とは大きく異なり、日本の総人口に占める高齢者の割合は年々上昇しており、令和でもその傾向は続くと考えられます。筆者は、令和では「高齢者」の存在がさらに大きくなることに焦点を当てています。

政府は高齢者の就労機会の確保に取り組んでいますが、高齢になればなるほど、就労による収入が減り、資産の取り崩しや年金による収入を消費に充てざるを得なくなります。金融仲介機能を分析する際には政府部門、企業部門、家計部門に分けて資金の過不足を分析することが一般的ですが、本論文で述べられている通り、高齢者の割合が上昇していく令和の時代には、家計部門を現役世代と高齢者に分けて分析することが重要です。筆者の指摘するように、「現役世代の家計が、政府の財政赤字を賄いながら、高齢者の手放す資産を取得する」ことが、令和の金融仲介全体の基本的な枠組みとなっていくのでしょう。

続く5章で、高齢者という主体の重要性が増す中で、今後の課題を示しているのも評者にとって示唆に富むものでした。高齢期に属する人の割合が今後増えていきますが、高齢期の収入減少分を補うために、早い時期から高齢期を見据え、長期の資産形成をする人が多くなると考えられます。しかし、筆者は、長期的な資産の需要が増しても、長期的な資産の供給も増加するとは限らないと指摘しています。もし収益を生む投資の機会が少ない中で多くの資金が運用を求めると資産価格は上昇し、運用利回りは低下します。このようなことが起こらないよう、筆者は「投資機会の発掘」が必要だと述べています。
本論文では、その具体例は示されていませんが、企業年金や公的年金の積立金や個人の金融資産が、預貯金や債券だけでなく株式でも運用されることを考えると、世界経済が成長を続けるならば、国際分散投資をより進めていくことも有効な選択肢かもしれません。また、資金需要が旺盛な新興企業の資金調達手段の拡充や、スチュワードシップ活動により企業のガバナンスを強化し収益性を高めていくことも課題でしょう。

評者は証券会社グループのシンクタンクに属していますが、証券市場に携わる者として、高齢期に向けた早期からの資産形成を現役世代に促すとともに、上記のような「投資機会の発掘」を行いやすい市場環境づくりを行っていくことに改めて社会的な責任を実感いたしました。

斎藤 航(さいとう・わたる)大和総研金融調査部研究員
2019年大和総研入社、20年より現職。専門分野は会計制度、税制、金融商品取引法。
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