年金時代

【書評】斎藤航著「資産形成のためのリテラシー調査」NO.4 国民年金未納者の属性分析にみる納付率向上への課題[大和総研レポート2020年8月7日](評:田村正之)

「国民年金未納者の属性分析にみる納付率向上への課題」
斎藤 航 著
大和総研レポート「資産形成のためのリテラシー調査」(2020年8月7日)
https://www.dir.co.jp/report/research/policy-analysis/social-securities/20200807_021692.pdf

大和総研が実施した「資産形成のためのリテラシー調査」を用いて、国民年金第1号被保険者の年金未納者について詳細な属性を明らかにしています。調査に回答した約4万5,000人のうち、「国民年金の保険料を支払うべきだが、未納・滞納になっている」と答えた未納者を対象に、筆者の斎藤氏は①学歴②婚姻の有無③保有資産残高④個人の資産――という切り口で分析していきます。

まず学歴別の傾向。全体で未納率(国民年金の未納・滞納者数÷国民年金の納付者と未納・滞納者数)が10.3%なのに対し、中学卒業以下の学歴の場合は29.6%、高校は15%と高い結果でした。

次に世帯構成別の動向。個人年収300万円未満で子供のいる未婚者が、非常に高くなっていて、彼らが保険料納付に特別な困難を抱えていることが浮き彫りになっています。
未婚のひとり親については2021年7月分の国民年金保険料から新たな保険料免除基準が設けられ、例えば「生計同一の子がいる未婚の父または母で前年の合計所得が135万円以下」の人は新たに全額免除の対象になります。筆者は「新たな保険料免除基準が周知されれば未納率が低下することが予想される」と期待しています。

保有資産残高別にみると、金融資産残高が10万円以下では未納率が29%と高く、残高が増えるにつれて低下していきます。しかし注目すべきは、保有資産残高が高いにもかかわらず未納の人が一定数いること。未納者のうち1割強は500万円以上の金融資産残高があり、1,000万円以上の世帯においても未納率は4.2%と結構高い結果が出ています。
筆者はこれに対し2つのアプローチを提示します。一つは納付をつい忘れてしまう人を減らす試みで、口座振替による保険料納付を推進すること。もう一つは国がより積極的に督促を行い、強制徴収すること。国が個人の金融資産の捕捉をできるようになるためにも、銀行口座のマイナンバーの紐づけを進めることの重要性が増しています。

最後は未納者が個人の資産形成制度利用や保有金融商品の利用状況。未納者でも11.1%が個人年金保険を利用し、6.0%が外貨保険を利用しています。筆者は未納者のうち一定数は金融機関と接点があることを指摘、金融機関の協力を得て国民年金保険料納付を勧めることが重要としています。

以上、このリポートは厚生労働省で実施している「国民年金被保険者実態調査」での未納者の分析を補い、新たな視点を提示するものになっています。金融系シンクタンクらしいアプローチであり、多くの読者に、そして行政に対しても参考になるものと思います。

そのうえで感じるのが、公的年金に対してまだ幅広く残る国民の理解不足です。①長生き②一家の大黒柱が亡くなる③けがや病気で働けなくなる――という人生の3大リスクに総合的に対応する「保険」が公的年金です。民間で同じ機能を作ろうと思えば、はるかに高い保険料負担が求められるのは明白です。保険である以上、過度に損得を考えるべきではありませんが、長寿化の中で本来はまず誰もが最優先で加入を考えるべき「お得な仕組み」といえます。
国民年金の財源の半分は税金ですから、保険料を払わず将来年金を受け取れないということは、税金だけをとられるという損な状況に自分を陥れることにもなります。ましてや、公的年金に加入せず、民間金融機関が分厚いサヤを抜く個人年金保険や外貨保険に加入するのはリテラシー不足以外の何者でもありません。

今回の分析で深刻であるのが、こうして自らを不利な状況に置いてしまう未納者の多くが、低学歴や低収入層に多くみられる点です。公的年金への理解不足は、「いざというとき」の年金の給付減を通じて、貧しさのスパイラルをももたらしかねません。

昨今、投資などを中心とした金融教育の重要性が頻繁に語られます。しかし義務教育段階での年金を中心とした社会保障教育も、金融教育以上に重要ではないかと、評者はこのレポートから新たに示唆を受けました。

田村 正之(たむら・まさゆき)日本経済新聞社編集委員、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)、CFP®認定者。近著に『人生100年時代の年金戦略』『税金ゼロの資産運用革命』『はじめての確定拠出年金』など。田村優之の筆名で小説も執筆し1998年に開高健賞受賞。経済小説『青い約束』(原題「夏の光」で2004年松本清張賞最終候補作)は14万部超に。

 

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