年金時代

【書評】原 佳奈子 著「人生100年時代の将来設計と年金制度」(『きねんきょう 第258号 2020.9』所収)田川 勝久 評

「人生100年時代の将来設計と年金制度」
原 佳奈子 著
企業年金連絡協議会 発行『きねんきょう 第258号 2020.9』所収

「柱とする公的年金と私的年金」「就労期間と年金の受取時期」
――この2つの組み合わせで長期化する老後の収入確保を

原氏論文の貢献は、人生100年時代の将来設計において、長期化する老後の所得確保に向けて、社会保障制度の公的年金を柱としながらも、確定給付企業年金(DB)や確定拠出年金(DC)に代表される企業年金とiDeCoなどの個人年金といった私的年金を組み合わせて、老後の収入確保の準備をすること、また、できるだけ就労期間を長期化して、就労期間と年金の受取時期を組み合わせて、新しい視点で将来設計を考えること、と看破した点にある。また、氏の1級FP技能士の知見と経験からライフプランの考え方を駆使し、生活スタイルの考え方、就労期間の延長、働き方の希望、生きがいとは、自分はどうしたいのか、というライフプランの原点から説き起こし、公的年金と私的年金等を組み合わせた老後への将来設計を提示した点にある。なかんずく、人生100年時代における老後の所得確保における公的年金の活用方法として、①繰下げ制度の活用、②国民年金への任意加入により老齢基礎年金を満額にする方法の提案、③被用者について、まずは厚生年金に加入して就労することの重要性を提案している。また、公的年金の上乗せとなる私的年金をどうするかなどを早めに考え、対策を取っておくことが重要と指摘している。また、私的年金等については、①まずは、自社の企業年金制度がどのような制度なのか、そして自分がどのような制度に加入しているかの確認が必要であり、重要であること、②個人年金の加入検討については、老後資金準備に有効な制度としてiDeCoなどを挙げている。人生100年時代ともなると、老後資金準備の早期化の必要性は、ますます重要になってくる。様々な選択肢をよく比較検討したうえで、長期にわたって自分で管理できる範囲内で、自分で判断できる知識を身につけながら、公的年金と私的年金等との組み合わせを考えていく等、人それぞれの将来設計で、人生100年時代を切り開いていく必要があると締めくくっている。

原氏が指摘するように、企業年金には退職してから公的年金が支給開始となるまでの期間の所得保障を行う、あるいは就労期間の延長と公的年金の繰下げ制度の組み合わせによる「つなぎ機能」が期待されている。一方、給付額の引き下げも続いており、モデル世帯での、現役の平均所得の6割という年金水準は困難になる可能性が高く、5割前後まで引き下がるのではないかという見方もある。このため、企業年金等が公的年金と生活水準維持との隙間を埋める「上乗せ機能」を持つことへの期待が高まっているわけである。

私の考えでは、企業年金、なかでもDBは、投資運用環境や母体企業の経営状況等から、厳しい状況にあるといえるが、長い目で見れば、公的年金の上乗せとなる企業年金の役割は大きくなっていくとみている。また、有能な人材を惹きつけ保持するうえでの企業年金の機能の重要性は、就労人口減少の中で、むしろ強まっていくものと考えられる。

確定給付企業年金法と確定拠出年金法の成立という抜本的な企業年金改革が行われ、企業年金の関係者の取り組みは、様々な工夫が凝らされ現在に至っている。こうした中で、残されている最大の課題は、各個人の「年金受給権の保護」である。様々な選択肢はできたが、それらを有機的に年金給付につなげる仕組みは十分ではない。また、退職一時金を起源とする日本の企業年金では、年金受給者に対する配慮が十分とはいえない。そのことは、米国では許されていない既受給者の年金給付が、一定の条件付きとはいえ許容されているところに現れている。企業年金のポータビリティはかなり整ってきたが、例えば、DBにおいて年金受給資格を満たさずに退職した場合、多くの人が脱退一時金を受け取っており、まだポータビリティ機能が十分発揮されているとは言い難い。米国では、このようなケースでは個人引退勘定(Individual Retirement Account)に移換して受給権につながるようにしている。もし、企業年金が、企業年金の中で受給者に対する十分な配慮ができないとすれば、年金受給者を保護する「日本版個人引退勘定」のような仕組みを考えていく必要がある。この考え方に立てば、企業は、加入者が退職するまでの責任を持ち、退職後は「個人引退勘定」に資金と責任を移換するとの考え方になる。中途退職者だけでなく、年金受給者でも、希望者は移換できるようにすることも考えられる。とすれば、企業は年金受給者に対しての退職給付債務を圧縮することも可能である。

原氏論文を拝読して、就労期間を終えた後の老後の生活保障機能として、収入源の大半を占める公的年金と私的年金等の「受給権保護」は、しっかり担保されなくてはならないと改めて考えさせられた次第である。

原佳奈子さんの論文が掲載された『きねんきょう 第258号 2020.9』
田川 勝久(たがわ・かつひさ)特定社会保険労務士、中小企業診断士、CFP®、1級FP技能士、1級DCプランナー、DCアドバイザー。企業年金連絡協議会前会長・現専任顧問、日本年金学会幹事、年金シニアプラン総合研究機構評議員、年金綜合研究所評議員などを務める。
企業年金連絡協議会は、年金実務者が集まり、相互の交流や研鑽を通して業務運営に必要な知識・情報を交換、共有するとともに、その運営に直結する課題に対し、意見・要望・改善策を発信し、企業年金制度の健全な発展を目指すということを理念に掲げている。このように一つの理念のもとに集合している団体であり、現場目線から行政要望、制度提言を発信していく研究の場として、組織内に企業年金制度研究連絡会(略称:研連)が運営されている。

 

年金時代